平成24年9月現在
平成23年12月に改正国税通則法(以下、改正法という)が公布され、税務調査に関する手続き等が法律として規定されました。この改正法の施行は平成25年1月1日ですが、ある一部の税務署では試行調査が行われているのではとの憶測もあります。税務署側の動向に注視するとともに、納税者側も対応を考えておかなければなりません。
税務調査の実施について「あらかじめ」納税者と税務代理人(税理士等)に対して「その旨及び次に掲げる事項を通知する」と明文化されました(改正法第74条の9)。基本は次の七項目になります。
② 調査を行う場所
③ 調査の目的
④ 調査の対象税目
⑤ 調査の対象期間
⑥ 調査対象の帳簿書類その他の物件
⑦ 納税者の氏名及び住所(居所)、調査担当職員の氏名及び所属
※ ①・②については「合理的な理由」があれば変更可能であり、当然のことながらこの変更請求は調査拒否にはあたりません。
前掲7項目は書面では通知されませんので、メモを用意して書き留めておくことが大切になります。
事前通知が明文化されたことに伴い、例外として無予告調査と呼ばれる調査を税務署側が行うことができる要件が法律に明記されました(改正法第74条の10)。
『納税義務者の申告や過去の調査結果の内容又はその営む事業内容に関する情報その他国税庁等もしくは税関が保有する情報に鑑みて』、以下の要件が認められる場合には事前通知を要しないとされました。
この規定は「悪質な納税者の課税逃れを助長することのないよう」定められたものですから、無予告調査を実施する調査担当官はその説明責任を負うと考えられます。
もし、無予告で調査官が調査に訪れた場合には納税者は事前通知を行わないと判断した理由の説明を求めることができると解されます。
ともかく突然の調査官の訪問には、すぐに税理士等に連絡をとり、対応を依頼して、帳簿等は見せずに調査日の変更をしてもらうことが肝要です。
これまで各税法に置かれていた質問検査権(税務調査の際に質問して検査することができる権利)の規定が、今回の改正で国税通則法に統合されました。
その際に下記のような文言に置き換えが行われました。
つまり、《質問・検査》+《提示》《提出》という調査する側の権限強化ともとれる規定に置き換えられました。
さらに注目すべき点は、「留め置き」の規定も新設されたことです。「必要がある時」は提出された物件を役所に持ち帰り、一時的に保管することができるというものです(改正法74条の7)。
これまでも、調査官が帳簿書類等を持ち帰ることは慣行として一部行われていましたが、今回の改正で法律に明記されることになりました。
さらに以下のような罰則も創設されたので、税務職員の対応が厳しくなることも可能性として大いにありそうです。
質問検査権を行使する調査は任意調査なので、任意に提出されたものを「留め置く」ことができる規定と解すれば、納税者の同意が大前提となり、税務職員が提出を強制したり、納税者の同意無しに勝手に持ち帰ることはできません。
調査終了時の手続きも明確化されました。
- 文書による通知が行われます(改正法74条の11第1項)。
- 調査結果の内容(更正決定等をすべきと認めた額及びその理由を含む。)を説明することとされました(改正法74条の11の2項)。
調査が終わるときには、この「通知」か「説明」が行われます。
※更正決定とは・・・申告書に何らかの誤りがあった場合に税務署がその提出されている内容を直すことが「更正」、そして申告書の提出義務があるにもかかわらず、提出がない場合に調査を行い、税務署が税額を決定することを「決定」といいます
また今回の改正により、納税者が申告税額に減額を求めることができる更正の請求期間が、原則1年から5年に延長されました(改正法第70条の1)。
一方、税務署長が増額更正を行うことができる期間も、所得税・消費税について3年から5年に延長されました(法人税はすでに5年に延長されています)。
その結果、通常3年とされていた税務調査が、今後は5年に延長されることが予想されます。
今回の改正で税務当局の課税権限の強化が見え隠れするものもあります。しかし、日頃からいつでも調査に対応できるきちんとした帳簿の作成や証憑書類の整理などを心がけていれば、税務調査も怖くはありません。そして税理士等と常に意思統一をしていれば安心です。