いわゆる同族会社は、①「定期同額給与」としての支払と、②「事前確定届出給与」の届出をしなければと、役員給与を損金(経費)とすることはできないという、大変窮屈な状況下にあります。
通常、会社が役員に対して支給する給与(月額報酬)は、定時株主総会か、この総会の「総額決定」を受けた取締役会議で決めます。
例えば、6月決算の会社であれば8月下旬頃に定時株主総会を開催して、役員給与の増・減額を決議し、その改定役員報酬額の支給は9月分からの実行となります。そして、翌年の8月分まで月額を同額支給すれば、「定期同額給与」に該当し、経費とすることができます。
この定期同額給与とならないケースが少なからず見受けられます。例えば、資金繰りが悪いからと6月決算の会社が翌年1月から社長の給与を月30万円減額すれば、既に支払い済の9月分からの4ヶ月分120万円が損金(経費)とならなくなります。
また、利益が出たため1月分から月20万円増額すれば、その増額分(各月20万円)が損金となりません。
法人税法34条1項1号では、その支給時期が1ヶ月以下の一定の期間ごとである給与(以下「定期給与」といいます)で、当該事業年度の各支給時期における支給額が同額であるもの、とされています。
しかし、社長が不測の事態で退任し、臨時株主総会で新社長が就任する場合や、会社の経営が著しく悪化し、従業員の給与や賞与をカットするような状況になった時は、役員の給与を減額したり、前社長の給与を打ち切り、新社長の給与を新たに決定しても「定期同額給与」に該当します。
(参考法令等)
法人税法34条
法人税法施行令69条
法人税基本通達9-2-12・9-2-12の3・9-2-13
非常勤役員に支給する年1回、2回の役員報酬は、同族会社は定期同額給与となりませんので経費とすることができません。
しかし、「事前確定届出給与」の届出をすれば損金となります。
この事前確定届出給与は、一定の要件を満たした役員賞与も損金とすることができます。
そのためには「届出」に記載した支給日に「届出」の金額を支給しなければ損金となりません。
この支給金額が多くても、少なくても支給した金額が全額損金となりませんので注意を要します。
事前確定届出給与として損金とするためには、①その役員の職務に対して、所定の時期に確定額を支給する旨の定めに基づいて支給する給与で、②所轄税務署長にその内容に関する届出を期限までに行う必要があります。
届出期限は、①その給与に係る決議をする株主総会等の日から1月を経過する日と、②事業年度開始の日から4月を経過する日(新設法人は、設立日以降2月を経過する日)のいずれか早い日まで、となっています。
また、届出の内容は、
① 支給対象者の氏名、役職名
② 支給時期及び各支給時期における支給金額
③ ②を定めた日及びその定めを行った機関(株主総会等)
④ 役員の職務執行開始日
となっており、ほとんどの情報を届出し、届出どおりに支給しなければ、損金として認められません。臨時改定事由(職制上の地位の変更など)が生じた場合は、改定事由が生じた日から1月を経過する日までの届出が必要です。
(参考法令等)
法人税法施行令69条2項、155条の6
法人税基本通達9-2-14~9-2-16
さらに、社長一族で90%以上の出資額となる会社で、社長一族の役員数が役員総数の半数を超える会社は「特殊支配同族会社」となり、社長の給与の給与所得控除相当額が損金にならなくなります。
ただし、その事業年度開始の日前3年以内に開始した各事業年度(基準期間)の所得金額等と社長(業務主宰役員)給与額などを基礎として計算した金額(平均額、以下「前3年基準所得金額」といいます。)
が、次の場合は適用除外となります。
① | 前3年基準所得金額が1,600万以下である場合のその事業年度 |
---|---|
② | 前3年基準所得金額が年1,600万円超3,000万円以下であり、かつ、その平均額に占めるその業務主宰役員に対して支給する給与の平均額の割合が50%以下である場合のその事業年度 |
なお、新設法人等で基準期間がない特殊支配同族会社においては、その事業年度の所得金額等と業務主宰役員給与額などを基礎として計算した金額(当年度基準所得金額)をもとに判定します(令72条の2第9項)。
また、その事業年度開始の日前、3年以内に開始した事業年度のうちに、特殊支配同族会社に該当しない事業年度がある場合は、その該当しない事業年度のうち、最も新しい事業年度以前の各事業年度等を除く、とされています(令72条の2条5項)。
例えば、前3年以内に開始した各事業年度のうち、直前の事業年度及び3期前の事業年度は特殊支配同族会社に該当し、2期前の事業年度は特殊支配同族会社に該当しない場合の基準期間は、直前の事業年度のみになります。(基通9-2-56)
〈具体例〉
○・・・特殊支配同族会社に該当
×・・・特殊支配同族会社に非該当
第1期 | 第2期 | 第3期 | 第4期 (当期) |
基準期間 | |
具体例1 | ○ | ○ | × | ○ | なし |
具体例2 | ○ | × | ○ | ○ | 第3期 |
具体例3 | ○ | × | × | ○ | なし |
具体例4 | × | ○ | ○ | ○ | 第2~3期 |
具体例5 | × | ○ | × | ○ | なし |
具体例6 | × | × | ○ | ○ | 第3期 |
具体例7 | × | × | × | ○ | なし |
(参考法令等)
法人税法34条
法人税法施行令72条の2
法人税基本通達9-2-56
最後に、注意を要する2点です。
①出資額のない従業員でも監査役になっておれば役員となりますので、賞与は損金にならないし、月給も定期同額の適用を受けます。
②税法は「実質主義」なので、形式上の名義人にその収益が入っていても、実際は別人にその収益が帰属していれば、その実質所得者に対して課税されます。(法人税法11条・所得税法12条)
例えば、東京の学校へ在学している長男に給与を支給している場合とか、中退共の掛金を元従業員に掛けている場合等は税務調査では「不正行為」と認定される度合いが高いでしょう。