起死回生 (16.2.17)
「あなた・・・この手で人を殴っちゃいけませんよ。この手はみんなの夢だったんですから」
不確かであるが、こんな台詞だったように思う。昔観た高倉健主演の映画『居酒屋兆治』で、わけあって人を殴ってしまった元高校球児の主人公兆治の手を取り、取り調べ室で刑事が諭す言葉だ。警察車両で護送される清原をニュース映像で見た時、ふと思い出した。
20年前、高知の春野球場で、西武時代の彼を見たことがある。全体練習の後、一人でフリーバッティングをしていた。大きな放物線を描いて、外野フェンスを軽々と越えいく打球を放つ彼の背中を、かつて野球少年だった私は、羨望の眼差しで見ていた。
あれから20年、野球ファンに多くの感動と興奮を与えた英雄も薬物におぼれ、背中に墨を入れ、落ちるところまで落ちてしまった。その体に墨なんか入れちゃいけないよ。あなたはみんなの夢だったんだ・・・、と諭してくれる人もいなかったのか。残念だ・・・。
かつての英雄は、一発逆転のホームランを夢見るかもしれない。しかし、それは難しい。まずは世間から打席に立つチャンスを与えられるよう更生してほしいと願う。そして打席が回ってきたなら、地道なヒットを重ねて逆転の人生を歩んでほしいと思う。彼は、野球少年たちのあこがれであり、夢だったのだから。
(松本 秀紀)