コラム

まだまだ・・・です。 (15.12.22)

 今年ももうすぐ終わる。11月に起きたパリ同時多発テロは記憶に新しい。パリでは1月にも風刺週刊誌シャルリー・エブドの編集者たちがテロリストに襲撃されるという痛ましい事件があった。テロリズムはいかなる理由があろうとも許されるものではない。しかし、1月の事件後、反テロのデモ行進でパリの中心街を埋め尽くした群衆を、テレビのニュース映像で見た時には違和感を抱いた。シャルリー・エブドの風刺画の何枚かをネット上で見ていたからだ。その絵を見た時、「これが風刺か・・・」と思った。下品。感想はただそれだけだった。文化の違いもあるのだろうが、私にはユーモアのセンスの欠片も感じられなかった。
 「テロリストが、銃で出版社の人々を撃ち殺した」。眼前の出来事だけを見てする善悪の線引きなら子どもにだってできる。世の中で起きていることは、そんなに単純なことではない。だから事件のすぐ後、言論の自由を象徴するペンと、「私はシャルリー」と書いたプラカードを掲げて、反テロの大行進をするパリ市民を引き気味にテレビを通してながめていた。彼らが声高に叫ぶ言論の自由によって辱めを受けたイスラム教徒の信教の自由はどう救済するのか・・・と。
 
 「私も言論の自由が民主主義の柱だと考える。だが、ムハンマドやイエスを愚弄しつづける『シャルリー・エブド』のあり方は、不信の時代では、有効ではないと思う。移民の若者がかろうじて手にしたささやかなものに唾を吐きかけるような行為だ。ところがフランスは今、誰もが『私はシャルリーだ』と名乗り、犠牲者たちと共にある。私は感情に流されて、理性を失いたくない。今、フランスで発言すれば、『テロリストにくみする』と受けとめられ、袋だたきに遭うだろう。だからフランスでは取材に応じていない。独りぼっちの気分だ。」

 読売新聞1月12日朝刊の記事から引いた。フランスの歴史人口学者エマニュエル・トッド氏の言葉だ。氏がテロの犠牲者と同じフランス人であることが、殊更にこの言説に大きな意味を持たせていると思う。他者の存在を認める寛容さに感動した。自分を知り、他者の立場を慮る気持ちがなければこういう言葉は述べられない。教養を積むことの大切さを思い知らされた。寛容な心は教養によってもたらされるものであると思う。
 来年、私の年齢は大台(大台とはいくつであるか、人によって違うだろうが、あえて言うまい)に乗る。ここまでの年齢になってもなお、公私の両場面において一時の感情に突き動かされそうになるときがある。まだまだ寛容さが足りない。つまり教養がないのだ。来年以降も多くの人の話を聞き、書を読み、教養を深めていかなければならない。いつも理性的に世の中を観られる人でありたい。足りないものがあるだけに、まだまだ伸びしろがあるぞと、ポジティブに捉えて気持ちよく新年を迎えたい。
 今年もお世話になりました。来年もよろしくお願いいたします。
(松本 秀紀)
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