風立ちぬ、いざ生きめやも (13.9.17)
つい先日、素敵な出来事がありました。とても天気のいい日でした。その時、私は仕事先から戻ってきて、会社から少し離れた駐車場に車を置き、まだまだ残る暑さを疎ましく思いながら、うつむき加減で会社へ向かってトボトボと歩を進めていました。会社の少し向こうから、2、3年生くらいでしょうか、学校帰りの小学生の女の子が一人、こちらへ歩いて来るのが、早くから私には見えていました。
そして、ちょうど会社の前あたりでそれは起きました。「こんにちは」。すれ違いざまに、ピンクのランドセルの似合うその女の子があいさつしてくれたんです。まったく思いがけないことで、一瞬たじろいだ後、慌てて私も「こんにちは」と返しました。
近頃は、世も世知辛くなり、よその子どもにちょっと声をかけただけで、「声かけ事案発生」などと不審者扱いされてしまう恐れがあります。だから私も長いことよその子にあいさつした記憶がありません。それだけに、その女の子がくれた「こんにちは」はとても新鮮でした。にっこり笑ってあいさつを返せなかったことを後悔しています。きっと「無愛想なおっさんやなあ・・・」と思われたでしょう。
時期的にも、時間的にも、まだ照り返しのきついアスファルトの路上での出来事でしたが、その女の子は、おっさんをとても清々しい穏やかな気分にしてくれました。風立ちぬ。少し前に観た映画のラストシーンの風吹く草原に立っているような、そんな気持ちにさせてくれました。まだまだ世の中捨てたもんじゃないですね。
「この世は生きるに値する」。先日引退を表明した映画監督の宮崎駿さんは、子どもたちにそう伝えるために、アニメ作りに取り組んできたそうです。私は女の子にそれを気づかされました。何気ない日常の、その一瞬の出来事は、私にとってそれほど素敵なものでした。次にその子に会ったら、こちらからにっこり笑ってあいさつしてあげたいです。未来ある子どもたちが、「この世は生きるに値する」と思えるように・・・。そう、笑顔の倍返しだっ!!
(松本 秀紀)