「はだしのゲン」の閉架措置に思う (13.8.19)
漫画『はだしのゲン』をご存じだろうか。私も幼い頃に読んだ記憶がある。この漫画は、漫画家の故中沢啓治さんが自らの被爆体験をもとに描いた作品で、多くの人が一度は目にしたことがあるのではないだろうか。
その『はだしのゲン』が、「描写が過激だ」との理由で松江市教育委員会が市内の小中学校で教師の許可なく閲覧できない閉架措置を求め、全校が応じていたことがわかった。「描写が過激」なものならネット上であふれているのに、なぜいま『ゲン』だけがこのような扱いをされるのか。
このところの選挙で自民党が再び盛り返し、悲願だった憲法改正に向けて着々と準備を進めているようだが、そういう動きと一体化しているような気がしてならない。国家権力が国民を統制し、戦争や核兵器の恐ろしさから目をそらさせ、日本に国防軍を置く、表現の自由を制限し、反戦意識をうすめるというストーリーだ。
たしかに私は幼い頃に見た『はだしのゲン』のあの恐ろしい絵と内容の衝撃が今でもトラウマになっていて、二度と見たくない漫画ではある。しかし同時に戦争と核兵器の恐ろしさもしみついたのも事実だ。世の中は楽しいことばかりではない。むしろ悲しいこと、悲惨なことがあふれている。子どもたちはそれを漫画を通して疑似体験することによって、弱者や他人の痛みを想像することができるようになるのではないだろうか。
あの漫画を読むか読まないか、それは個人が決めることであって、学校や教育委員会が『はだしのゲン』に限ってのみその機会を奪ったり、制限することはやはり問題であると思う。
(鈴木)